海と陸、どちらから見てもロシアが最強と言われてきた理由
海上での「最短距離」の大切さ
地政学にシーレーンという言葉があります。
これを海上交通路とも言い、まさに船が物資を運ぶときに通る海の道のことです。
船で海を進む場合、燃料がかからないようになるべく最短距離を進む必要があるため、シーレーンはある程度決まった道になっています。
そんなシーレーンの中でも、特に通れなくなると困る場所をチョークポイントと呼びます。
チョークポイントは主に『○○運河』や『✕✕海峡』と名前がついている場所を指します。
例えば、中東から日本に来るまでのシーレーンを見てみると、必ずホルムズ海峡という狭い場
所を通る必要があります。
日本は国内で使われる石油のほとんどを中東から買っているため、もしホルムズ海峡が封鎖されると、石油を日本に運べなくなります。
「チョーク」とは英語で『首を絞める、窒息させる』という意味です。
つまり封鎖されると、それほど恐ろしいことになるということです。
『チョークポイントを制する者が世界を制する』と言っても過言ではないのです。
もし戦争になったとき、直接相手の国を攻撃できなくとも、チョークポイントを閉鎖すれば、相手国の動きを止められます。
なので世界の国々は、これらの重要な場所を守るためにさまざまな戦略を考えているのです。
「ハートランド」が最強?
ランドパワーという言葉を考えた地理学者マッキンダーは、世界で最も強い場所をハートランドと名付けました。
「ハート」とは「心臓」を、「ランド」とは「土地」を意味します。
マッキンダーは、ユーラシア大陸の中央をハートランドと位置付けました。
国でいえば、ロシアなどが位置する地域です。
ハートランドを決める最大のポイントは『背後をとられないこと』です。
ロシアの領土は広大であり、多数の国々と接しています。
そしてロシアの北側、つまり背後には北極海がありますが、そこは常に凍りついている海域なため、例えば他国から軍艦で攻められることはありません。
さらに資源も豊富で、輸送する手段も発展しています。
なのでロシアは究極の安全地帯と考えられてきました。
しかし、最近では地球の温暖化で北極の氷が溶け、北極でも船が通れるようになってきています。
新たなシーレーンの発見と同時に、ハートランドの位置付けも変化してきています。
温暖な地域が恋しいロシア
ハートランドが有利であるとは言え、デメリットもあります。
ハートランドは『守り』においては強いですが、実は『攻め』は得意ではありません。
ロシアは、冬には港が凍ってしまうので、 軍艦を海に出せなくなります。
また、寒すぎて作物も育ちにくい地域が多いため、 食料問題のリスクもあります。
なのでロシアは暖かい土地を求め、 南に侵略を行ってきた歴史があります。
これを南下政策と呼びます。
ハートランドの周辺の住みやすい地域
ハートランドを考える際、必ず登場するのがリムランドという考え方です。
これはアメリカの学者ニコラス・スパイクマンが考えたもので、ハートランドの周辺の国や地域を指します。
リムランドは、 暖かくて作物が育ちやすく、 人が住むのにも適した環境のため、人口が集中しており、発展した都市がたくさんあります。
凍らない港が欲しいロシア
ハートランドにあるロシアには、暖かいリムランドを求め、何度も侵略を繰り返してきた歴史があります。
もしロシアがリムランドを手に入れれば、凍らない港を使えるようになり、容易に海に進出できるようになるからです。
しかし、もしそれが実現するとなると、シーパワーの国々が黙ってはいません。
シーパワーの国々はリムランドの国々と協力し、 ロシアをハートランドから出さないように努めています。
繰り返されるハートランド対リムランドの争い
リムランドを手に入れたいランドパワーの国と、 それを防ぎたいシーパワーの国の間で、これまで多くの戦いが行われてきました。
アジアでは朝鮮戦争やベトナム戦争、中東ではイラク戦争やシリア内戦、ヨーロッパでは2度の世界大戦に2022年のウクライナ侵略と、ヨーロッパの国際的な争いはこのリムランドを中心に起きているのです。
参考 On Seapower and Landpower - Modern War Institute - West Point